論文を書くために転職したのに給与まで未払いに

以前に勤務していた会社で、面接での話や仕事内容が違ってきた体験をしました。その会社は、新しい技術を使用した新製品を研究開発するベンチャー企業です。私は、その前の仕事(研究職)が任期つきで、任期が満了したため、次の仕事を探していました。

最近の研究職は、2~5年ぐらいの任期つきのポストが多く、その前の仕事など、一年しか勤められませんでした。しかも、結果が出せなかったからではなく、出した結果(ある測定装置の感度が、他の測定装置の感度より高い)が、ボスが気に入らない(ボスは、その測定装置が嫌い)という理不尽な理由です。このように、必死で結果を出しても、一年で首を切られる理不尽なことがまかり通っているので、きちんと研究ができるポストを探していました。

職探しの中で、以前に勤務していたその企業での面接では、「博士は、論文を書いて欲しい」と言われました。そこのポストの待遇は「正社員」で、会社が存続している限り任期がなく、かつきちんと研究して論文も発表できそうなので、そこに入社しました。ベンチャー企業なので、倒産などのリスクは高いですが、仮に三年で倒産したとしても、その前の勤務先のように一年で首を切られるよりましと考えました。

入社後は、新しい技術の習得と、製品の品質の検討などを行いました。表面構造解析やパターニングなどの多方面の技術を習得し、新規の薬剤の候補のスクリーニングに役立つ研究などを行いました。そろそろ論文に取り掛かりたいと考えていた時期に、経営上の理由で所属チームが解散となり、私は他のチームに配置換えとなりました。そのチームは、新しく販売予定の商品を開発しているチームで、論文を書ける環境から遠くなりました。商品化の前に、機密事項を論文で公表することは難しいからです。

そして、多くの課題を数人のチームで解決していましたが、私は他の人が解決できなかったり結果を出せなかった課題を任せられるようになり、三人分以上の仕事をするはめになり、非常に過酷な状況になりました。しかも、装置開発の技術者の仕事(装置のプログラミング)など、全然専門外の仕事もするはめになりました。その技術者が、いつまでも結果を出さずに、待っていられなかったからです。

他にも、動物実験や細胞培養など、私にしかできない分野の技術の習得のため、他の研究機関に泊まり込みで行ったり、非常に大変でした。その上、やっと週末になったら、他の社員がうまく結果を出せなかった仕事を休日出勤でさせられたりしました。最短で確実に結果を出さないといけない仕事で、他の社員では結果を出せないものをどんどん押し付けらるようになりました。

このように、最初の話と仕事内容がどんどん違ってきて、とても論文を書ける状況ではなくなり、しかも、商品開発と販売の計画にも多数の無理がありました。それを何度も幹部などに指摘し、より現実的な代替案の提案をしたのですが、全く聞き入れてくれませんでした。そのため、他のポストに転職することを考えましたが、研究職に就くには、論文などの業績が必要となるのです。論文が書けないから転職したいのに、転職するには、論文が必要となるという理不尽な状況で、辞めることもできませんでした。

結局、経営難で、そのチームも解散となり、製品化も果たせず、論文も出せずに、私は失業しました。しかも、何か月か給与の未払いがあり、もちろん退職金もなく、ましてや残業代や休日出勤の手当てもなく、しばらくは貯金を切り崩して生活しました。未払いの給与は、三年たってもほとんどが未払いのままだったので、簡易裁判所で未払い給与請求訴訟を起こし、五年もかかってようやく支払ってもらいました。本当は、勤務内容が違ってきたことと、論文が書けずに研究者生命が終わりかけたこと、過酷な仕事を強いられたことなどの慰謝料も訴えたかったのですが、その時間も費用もないので、最低限の基本給だけはもぎ取りました。